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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)1126号 判決

控訴人 大欧株式会社

右代表者代表取締役 千原武

右訴訟代理人弁護士 徳矢卓史

徳矢典子

布施裕

被控訴人 岩谷産業株式会社

右代表者代表取締役 岩谷直治

右訴訟代理人弁護士 畑良武

疋田淳

黒田京子

主文

1. 本件控訴を棄却する。

2. 控訴人の当審における予備的新請求(訴外ノヴアシルク社の任意的訴訟担当者としてする予備的新請求)にかかる訴えを却下する。

3. 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し三六九万四九九三円とこれに対する昭和五一年五月二〇日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被控訴人は主文1. 3.項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は左のとおり附加するほか原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

(控訴人の主張)

1. 本件取引において、控訴人が訴外会社の単なる媒介代理商人ではなく、訴外会社の委託により自己の名で取引を行ういわゆる問屋代理商人すなわち売主たる当事者本人であることは原審で主張したとおりである。

この点につき、原判決は自ら認定した次のような事実及び法律関係を看過している。すなわち、「原告(控訴人)と代理店契約を締結した訴外会社など外国の婦人服地メーカーが日本の顧客に対して製品を販売するには、必ず原告(控訴人)を通すことを要するものとされ、日本の顧客が海外でメーカーと直接交渉して製品を購入する場合であっても、メーカーは、原告(控訴人)の同意がなければ、製品を販売することができなかった」(原判決九枚目表二行目から七行目まで)のであり、ここでいう控訴人の「同意」とは日本の顧客(第三者)との関係では、控訴人が問屋として取引の取次をすることを引き受ける趣旨の法律行為にほかならない。

また、取引成立のさい、訴外会社が日本の顧客(買主すなわち本件では被控訴人)と直接代金の授受をし、目的物件の引渡しをして、その間控訴人は関与していないとしても(原判決九枚目表七行目から末行目まで)、そのことは何ら控訴人の問屋たる性質を否定することにはならない。すなわち、ここで行われているような信用状取引は迅速安全確実な方法により、しかも経費を節減するための商慣習であって、取引における控訴人の法的主体性とは全く関係のない慣行である。

さらに、控訴人が自ら訴外会社から製品を購入する場合には自ら信用状を開設しているとしても(原判決九枚目裏二行目から八行目まで)、そのこともまた控訴人が他の取引について訴外会社の問屋代理商人であることと矛盾するものでないことはいうまでもない。

2. 仮に控訴人が訴外会社の問屋代理商人でなく、それがゆえに、本件取引の売主当事者が訴外会社であるとしても、控訴人は訴外会社との間の代理店契約(甲第一四号証)において、訴外会社から、取引上生じた顧客(本件では被控訴人)との紛争一切について訴外会社の有する権利を裁判上代位行使することを委ねられているから、控訴人は本訴の原告適格当事者として本訴の請求をする。

(被控訴人の主張)

1. 控訴人の右1の主張を争う。控訴人が訴外会社の日本における総代理店すなわち単なる輸入代理店として同社から報酬または手数料を受ける立場にある媒介代理商にすぎないことは原審で主張したとおりである。

2. 控訴人の右2の主張も争う。もともと、控訴人が本件取引上の売主であれば、主張のような訴訟上の授権は必要でないはずであり、右のような授権の存在すること自体控訴人が売主でないことを示しているのであるが、それは暫らくおくとしても、控訴人主張のような授権は訴訟信託契約にほかならないから、信託法一一条に違反し無効である。

証拠関係〈省略〉

理由

1. 当裁判所も、控訴人の本件主位的請求および予備的請求はいずれも失当であるからこれを棄却すべきであると考えるものであって、その理由とするところは次のとおり附加するほか原判決の理由説示と同一(ただし、原判決一八枚目表四行目から同二一枚目裏三行目までを全部削除し、同四行目の「3」を「2」と改め、同行目の「本件商品の」から次行の「されたものであり、」までを削除する。)であるからこれをここに引用する。

控訴人の当審における主張1の所論は個々の点において首肯できないではない点も存するが、これらの点を引いて、直ちに、控訴人が本件取引における所論問屋代理商人であり、それゆえその売主であるとすることは困難である。

2. そこで、次に控訴人の当審における仮定的主張2について按ずるに、右主張は、その措辞において必らずしも適切と言い難い点もないではないが、要するに、控訴人は本件取引における売主である訴外会社からいわゆる任意的訴訟信託を受けたから自己の名で本件訴訟を追行し、従前控訴人固有の権利として求めた請求と同一の請求をするというものであると解しうるところである。

したがって、控訴人の右主張は当審における訴えの予備的追加的変更と解さなければならない。

そして、控訴人と訴外会社とが本件取引について控訴人所論のような訴訟信託契約をしていたと認めうることは原判決が認定判断したとおりであり(原判決八枚目裏三行目から一一行目までと同一七枚目表一一行目の「また」から同裏末行まで)、このことは当審で提出された様式体裁により真正に成立したと認めうる甲第二二号証の記載によってもこれを認めることができる。またさらに、右甲第二二号証および右認定事実によれば、訴外会社(在スイス国チューリッヒ)は日本から遠く離れているため担当者が来日するのは年間一〇日ないし一四日間ぐらいであり、同社自身が取引上日本において生じた紛争解決のため訴訟を追行することは困難であり、控訴人においてこれを担当する方がその取引関与の程度等からして便宜であることが認められ、前記訴訟信託契約には相応の必要性が存したものということができる。

しかし、裁判上いわゆる任意的訴訟信託による訴訟追行が許容されるか否かは単に信託当事者の都合と必要性如何だけによって決すことはできない。すなわち、わが民訴法はその四七条において任意的訴訟信託が可能である場合を原則的にではあるが法定しているのであるから(本件が右法条の定める場合に該当しないことは明白)、その例外を認めるとしても、一般に民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合にのみこれを許容すべきであると解される(最高裁大法廷昭和四五年一一月一一日判決民集二四巻一二号一八五四頁)。そして、いまこれを本件についてみるに、控訴人と訴外会社との本件訴訟信託には前記のような相応の必要性が存したことは明らかであり、かつ控訴人は権利主体である訴外会社と同程度に本件紛争に関与しているものと認めることはできるのであるが、ひるがえって考えてみると、控訴人としても、結局は、本訴の追行を法律専門家である弁護士に委ねているのであって、同じことは権利主体である訴外会社としても十分これをなしうるところであり、訴外会社がスイス国籍の会社であること等のゆえにこのような弁護士に対する訴訟委任が格別困難であるとも解し難い。また、控訴人は、訴外会社の本件取引に相応の関与をしているけれども、実体上自己の名で訴外会社の権利を行使し義務を負担するほどの関係にはなかったことも明らかである(例えば、民法上の組合契約において自己の名で組合財産を管理し、かつ訴訟追行権も授与されているような業務執行組合員、同じような頼母子講の講管理人のような場合と対比参照)。そして、このように考えてくると、本件訴訟信託契約に基く控訴人の本件訴訟追行は、結局、これを許容することが困難である。

そうすると、控訴人の当審における前記予備的新請求にかかる訴えは、その請求の当否を判断するまでもなく、控訴人に訴訟追行権がないから不適法であり却下を免れない。

3. よって、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人の当審での予備的新請求にかかる訴えはこれを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 畑郁夫 亀岡幹雄)

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